タンジェンシャルフローろ過(TFF)システムによる培養上清濃縮液の調製
〜 抗体精製前処理法の改良 〜
■編集:NPO法人サイエンス・コミュニケーション
■実験協力:総合研究大学院大学 葉山高等研究センター 鈴木 武士
概要
蛋白質の精製において、カラムクロマトグラフィーの前の試料処理は、得られる精製産物の純度や操作の再現性、カラムのコンディション維持などのために重要である。
ハイブリドーマ培養液からのモノクローナル抗体精製の場合、まず培養液から培養上清と細胞を分離し、次に培養上清の濃縮や脱塩の工程を経る。数100 mLまでの小スケールの場合、細胞分離に遠心分離、濃縮に遠心タイプの限外ろ過デバイス、脱塩には同じく限外濾過デバイスもしくは透析膜が用いられることが多い。しかし、遠心分離の操作はローターの大きさにより処理量が制限され、透析膜による透析には時間がかかること(0.5-2日)やサンプルのロスが多いなどの欠点がある。
本実験では、これらの解決手段としてのタンジェンシャルフローろ過(TFF)システムの有用性を検証した。
TFFは、試料溶液をろ過膜表面に平行に流して浸透させるろ過方式である。遠心ろ過デバイスのようなダイレクトフィルトレーション(DFF)では、膜に対して水平に試料を供給することから、分子量の大きい分子が滞留し目詰まりが多く生じ、試料の処理速度が急速に低下することがある。一方、TFFでは膜表面に保持される試料中の分子を掃きながらろ過することにより、膜の目詰まりを防ぎ、単位膜面積当たりの処理容量が多いという利点がある。
今回は、500 mLのハイブリドーマ培養液を出発材料に、TFFシステムを使い培養上清と細胞の分離および培養上清を濃縮、脱塩を行った。その結果、約3時間でモノクローナル抗体をロスすることなく一連の操作を完了することができた。
材料と方法
試料
- ハイブリドーマ培養液
(細胞株)
マウス由来IgG産生ハイブリドーマ
(培養条件)
培地 BD Cell Mab 無血清培地(日本ベクトンディッキンソン)
細胞密度 1×106 cells/mL
試薬
- 超純水
- PBS
機器
- LVセントラメイト ラボ用タンジェンシャルフローシステム(日本ポール)(図1)
- スーポアメンブレンセントラメイトLVカセット 0. 45μm(日本ポール)(図1C)
- オメガメンブレンセントラメイトLVカセット 30 K(日本ポール)


図1 LVセントラメイト
| A. LVセントラメイト ラボ用タンジェンシャルフローシステムシステム全体 |
| B. カセットホルダー部 |
| C. ホルダーにカセットを装着したところ |
実験方法
-
<細胞と培養上清の分離>
-
LVセントラメイトにスーポアメンブレンセントラメイトLVカセット
0.45μm をセットし、超純水で洗浄、PBSで平衡化する。 - 500mLの培養液をぺリスタティックポンプで送液し(透過流量7.4 mL/min)、透過液を回収する(図2)。
- 細胞の洗浄およびカセット、流路に残存する培養液を回収するために90mL PBSを透過し2の透過液と混合。
- LVセントラメイトのカセットをオメガメンブレンセントラメイトLVカセット 30Kに付け替え超純水で洗浄、PBSで平衡化する。
- 590mLの培養上清をぺリスタティックポンプで送液し(透過流量20mL/min)、循環液(濃縮液)を回収する(図3)。
- 循環液が50mLになるまで濃縮する。
- 50mLのPBSを加える。
- 6-7を6回繰り返す(合計7回PBS添加)。
※6-8の操作で培地由来成分が希釈される(表1)。 - 循環液が約25mLになるまで濃縮する(実測容量22.4mL)。
- 各工程の試料をブラッドフォード法およびSDS PAGEにより回収効率を評価する。
IPL41 complete mediumの調整法はInlow et al, 1989の方法に従った。

図2 LVセントラメイトによる細胞と培養上清の分離
A. 循環液(培養液→細胞濃縮液) B. 透過液(培養上清)
<培養上清の濃縮、脱塩>
図3 培養上清の濃縮、脱塩
A. 循環液(培養上清→蛋白質成分) B. 透過液(培地の低分子成分)
表1 各工程での濃縮、脱塩効率
結果
スーポアメンブレンを用いた精密ろ過による培養液からの細胞除去およびオメガメンブレンを用いた限外濾過による培養上清の濃縮、脱塩の操作によるタンパク質成分の損失はほとんどなかった(蛋白質成分の回収率99%)。
SDS PAGEのバンドパターンからも蛋白質成分のロスや分解は認められなかった。
処理時間は、細胞の分離(1.5時間)、培養上清の濃縮(0.5時間)、脱塩(0.5時間)を合わせて約3時間だった。
表2 各工程での蛋白質の回収効率

図4 各工程試料のSDS PAGE像
SDS PAGEのバンドパターンからも蛋白質成分のロスや分解は認められなかった。
処理時間は、細胞の分離(1.5時間)、培養上清の濃縮(0.5時間)、脱塩(0.5時間)を合わせて約3時間だった。
表2 各工程での蛋白質の回収効率

図4 各工程試料のSDS PAGE像
| M 分子量マーカー |
| 1. 細胞除去前 |
| 2. 細胞除去後の培養上清(ステップ3、透過液) |
| 3. 濃縮時の透過液(ステップ5) |
| 4. 脱塩処理後の培養上清濃縮液 |
| ※それぞれの試料は出発材料(1)との容量比を合わせて希釈した。 |
考察
TFFシステムによりハイブリドーマ培養液から、カラム精製前処理試料としての培養上清濃縮液を短時間、高回収率で得ることができた。
TFFシステムは膜面積の大きなカセットを使うことにより、流路長などの諸条件を保持したままスケールアップへの対応可能であることから、一定以上のスケールでの抗体をはじめとした蛋白質の精製に非常に有用なツールであるといえる。
2010-03-18 14:58:36
TFFシステムは膜面積の大きなカセットを使うことにより、流路長などの諸条件を保持したままスケールアップへの対応可能であることから、一定以上のスケールでの抗体をはじめとした蛋白質の精製に非常に有用なツールであるといえる。
2010-03-18 14:58:36















