CHO-S細胞のBD Select CHO 培地への馴化プロセスの検証
■編集:NPO法人サイエンス・コミュニケーション
■実験協力:お茶の水女子大学サイエンス&エデュケーションセンター 佐々木加代子
概要
細胞培養用の無血清培地は血清入りの培地と比べ、不要なタンパク質の混入を避けることができる、血清のロット差を気にせず安定した性能が得られるなどの大きな利点があり、近年数多くの無血清培地が開発され使用されている。
各試薬メーカーではそれぞれ特色のある無血清培地を販売しているが、相互の互換性は乏しく、他の培地への急激な変更は増殖不良や細胞死を引き起こすことが多い。このため、使用する培地を変更する場合には、段階的な馴化ステップが必要となるが、必ずしもその過程は確立されているとはいえない。
BD Select CHO(日本ベクトン・ディッキンソン、BD)は、培地最適化プログラムによって新しく開発された、高い収率が期待できるCHO細胞用の培地である。BD Select CHOは基礎培地及び加水分解物の双方が最適化されており、動物由来成分非含有で、cGMP CFR820に準拠した工程で製造されている。
本実験では、CHO-S細胞を別の無血清培地からBD Select CHOへ馴化させ、そのプロセスを検証したので紹介する。
材料と方法
- プラスチック製ディスポーザブル三角フラスコ
(BD Falcon三角フラスコ、平底 125mL:製品番号355117)

- CHO-S細胞 (Life technology)
- BD Select CHO(無血清培地、日本BD)
- 10% Pluronic F-68 solution(Sigma)
- CHO-S-SFM II (無血清培地、Life technologies)
- RPMI1640 (Life technologies)+10% FBS
- ガス供給可能な恒温振とう培養機(CO2-BR-40LF、タイテック)

*細胞培養中、実験室内の光が細胞へのストレスとなる可能性があるため、インキュベーターに遮光カバーを被せた。
実験方法
CHO-S-SFM II培地に馴化したCHO-S細胞を段階的に培地を交換し、BD Select CHO培地へと馴化させた。
培養条件:
温度 37℃、
振とう速度 120 rpm
ガス条件 5% CO2、20mL/min/フラスコ
培養液量 30mL培養液/125mLフラスコ
<前培養>
CHO-S-SFM IIに馴化済のCHO-S細胞を起こし、CHO-S-SFM IIにて2〜3代培養した。
※細胞密度が1〜2×106cells/mLに達したら、生存率が90%以上あることを確認し、3×105cells/mLとなるよう希釈し継代した。
※培養液中に放出されるgrowth factorが増殖に寄与するため、植え継ぎ時に遠心分離による培地の完全置換は行わず、培養液を新しい培地へ希釈した。

写真左:ガス強制通気用のフラスコキャップをつけたBD Falcon三角フラスコ
写真右:振とう培養機CO2-BR-40LFにフラスコをセットした様子
<馴化>
CHO-S細胞の馴化は以下の2通りの方法を試みた。
(A) CHO-S-SFM II ⇒BD Select CHO
(B) CHO-S-SFM II ⇒RPMI1640+10%FBS⇒BD Select CHO
(A) CHO-S-SFM II ⇒BD Select CHO

(B) CHO-S-SFM II ⇒RPMI1640+10%FBS⇒BD Select CHO

継代時の細胞の希釈は3×105cells/mLまたは2×105cells/mL(週末など3日間以上の培養が予め予想されるとき)を目安にした。
- 1〜2日おきに細胞数を計測し、トリパンブルー染色で生細胞の割合を確認。植え継ぎ時の2倍以上の細胞密度と90%以上のviabilityを確認して次の培地組成に移った。
- 培養液中のgrowth factorを活用するため、植え継ぎの際には培地を捨てずに(全容量の1/4〜1/2の旧培地を持ち込む)、新培地と混合した。
ただし100% BD Select CHOに移行する際には遠心で全培地を入れ替えた。 - 100% BD Select CHOに移行した後、CHO-S-SFM IIで培養していたときと同等以上の増殖が見られれば、細胞がBD Select CHOへ馴化したとみなした。
結果
(A)、(B)いずれの培地置換の方法でも、18日間でBD Select CHOへと置換することができた。
表1 各工程での細胞数

植え継ぎは3×105cells/mL で行った。ただし、ステップ2→3(day4→7)、ステップ4→5(day11→14)での植え継ぎは2×105cells/mLで行った。細胞のviabilityは全て90%以上であった。
※数値データでは示さないが、この後5代以上100% BD Select CHOで培養したところ、(A)も(B)も以降の増殖率はほぼ変わらず、細胞がBD Select CHOに馴化していることが確認された。
図1 馴化中の増殖曲線

(A)CHO-S-SFM II →BD Select CHOの馴化
(B)CHO-S-SFM II →RPMI1640+10% FBS→BD Select CHOの馴化
両プロセスでも増殖率に違いはなく、100% CHO-S-SFM IIで培養した場合とほぼ同様の増殖曲線を示した。
考察
本実験では無血清培地CHO-S-SFM IIに馴化済のCHO-S細胞を別の無血清培地BD Select CHOへと馴化させるプロセスを検証した。
(A) CHO-S-SFM II ⇒ BD Select CHO
(B) CHO-S-SFM II ⇒ RPMI1640+10%FBS ⇒ BD Select CHO
いずれの場合も、培地置換中の細胞は100% CHO-S-SFM IIで培養した際とほぼ同等の増殖を続け(図1)、
18日間で培地全てをBD Select CHOへと置換することができた。
血清入り培地からBD Select CHOへの馴化には14日間かかった。
本プロセス後、5代以上100% BD Select CHOで培養しても以降の増殖率はほぼ変わらず、細胞がBD Select CHOに馴化していることが確認された。
一般的な手順として、旧培地/新培地が25/75から0/100へと移行する手順が推奨されることが多い。しかし、今回の実験では25/75 ⇒ 0/100がスムーズにいかず、12.5/87.5の段階を入れることにより馴化を行うことができた。馴化しにくい培地の組合せ、培地・細胞の組合せでも希釈の段階を増やすことで対応できる可能性がある。
2010-11-01 10:36:52















