CHO-S細胞のBD Select CHO 培地を用いたバッグ培養によるスケールアップ

■編集:NPO法人サイエンス・コミュニケーション
■実験協力:お茶の水女子大学サイエンス&エデュケーションセンター 佐々木加代子

概要

抗体や組換えタンパク質を生産するバイオプロセスにおいてスケールアップには一般に以下の問題が伴う。
① 培養効率の低下
② 容器および装置の変更
③ ①②を解消するための条件検討とそれに要する時間とコストの増加
特に動物細胞培養ではその傾向が顕著であり、細胞株/培地の組合せにも大きく依存する。
BD Select CHO(日本ベクトン・ディッキンソン)は、培地最適化プログラムによって新しく開発されたCHO細胞用の無血清培地であり、高い物質生産効率を期待できる。一方、リサーチツール.JPの過去の記事(カルチャーバッグによるハイブリドーマの培養)にはハイブリドーマ培養のスケールアップでの培養バッグの有用性が記載されている。
本実験では、スケールアップ時に装置の更新を伴わない三角フラスコ/培養バッグ兼用培養装置を用いて、大規模な組み換えタンパク質の発現に広く使われているCHO細胞の、BD Select CHO培地での三角フラスコから培養バッグへのスケールアップについて検証した。

材料と方法

培養容器

  • 動物細胞用培養バッグ(カルチャーバッグセル 5 L、タイテック)
  • プラスチック製ディスポーザブル三角フラスコ
    (BD Falcon三角フラスコ、平底 125 mL: 製品番号355117、500 mL: 製品番号355125 )

細胞・培地・試薬

機器

  • ガス供給可能な恒温振とう培養機(CO2-BR-40LF、タイテック)

    *細胞培養中、実験室内の光が細胞へのストレスとなる可能性があるため、インキュベーターに遮光カバーを被せた。

実験方法

培養バッグ(2.5 L培地/5 L容器)と三角フラスコ(30 mL培養液/125 mL容器)での細胞増殖率・生存率を比較した。

<前培養(シード培養)>
培養条件:
温度        37℃
振とう速度 120 rpm
ガス条件   5% CO2、20mL/min/フラスコ
培養液量   30mL培養液/125mLフラスコ 2本
          → 125 mL培養液/500 mLフラスコ 2本
          → 125 mL培養液/500 mLフラスコ 6本 へと順次スケールアップ

※細胞密度が1~2.5×106 cells/mLに達したら、生存率が90%以上あることを確認し、5×105 cells/mLとなるよう希釈してスケールアップを行った。
※培養液中に放出されるgrowth factorが増殖に寄与するため、植え継ぎ時に遠心分離による培地の完全置換は行わず、培養液を新しい培地へ希釈した。



<カルチャーバッグのセット方法>
※カルチャーバッグセルは2010年6月にリニューアルされ、日本薬局方に対応となった。これに伴い、フィルム材質が変更となり、振とう装置への設置するための培養トレイへの固定方法も変更になった。本レポートでは、これまでとの変更点のみを記載した。
培養液のバッグへの導入方法や、サンプリング方法は過去の記事『カルチャーバッグによるハイブリドーマの培養』を参照。

1)カルチャーバッグの専用トレイを70%エタノールで拭き消毒する。



2)カルチャーバッグの外包装を開封し、バッグをトレイ上に置く。(作業はインキュベーター外でも構わない)。
カルチャーバッグ端の固定穴をトレイ前面&背面のフックに通す。

写真上:トレイ前面 写真下:トレイ背面



3)トレイ前面の押さえ金具を下し、留める。これでバッグがトレイ上に広がった状態で固定された。
チューブ先端に付いたエアフィルターの包装を剥がす。



4)クリーンベンチ内にトレイを移動し以降の操作、培地と細胞の注入をクリーンベンチ内で行う。



<培養条件>


24時間毎にサンプリングポートからシリンジを使い培養液を採取した。トリパンブルー染色し細胞数計算盤を用いて細胞数、生存率を顕微鏡観察により計測した。

結果

BD Select CHO培地で培養した際の、CHO-S細胞の細胞密度と生存率を下のグラフに示す。

細胞密度(×106 cells/mL)


生存率(%)


三角フラスコ、カルチャーバッグセル培養ともBD Select CHO培地で細胞は良く増殖し、5×105 cells/mLでの培養開始から5日間で4×106 cells/mL以上(カルチャーバッグセルでは4.5×106 cells/mL以上)の高密度に達した。
細胞は培養開始~4日まで95%以上、5日目まで90%以上の生存率を示した。これ以降、次第に生存率は低下していく。


考察

BD Select CHOへ馴化したCHO-S細胞を、30 mL培地/125 mL容積フラスコ、および2.5 L培養液/5 Lカルチャーバッグセルで培養を行い、その増殖率・生存率を検証した。
カルチャーバッグセルでの培養は三角フラスコと同様に、5×105 cells/mLでの培養開始から5日間で4×106 cells/mL以上の高密度に達した。細胞は培養開始~4日まで95%以上、5日目まで90%以上の生存率を示した。これ以降、次第に生存率は低下していく。
●数十mLの小スケールとL単位のスケールで同等の高い培養効率が得られたことから、BD Select CHO培地はCHO-S細胞の培養に汎用性の高い培地であると言える。
●生存率の面で、カルチャーバッグセルでの培養は最適化の余地があるといえる。ただし、ガス置換条件は同一であることから、検討すべき条件は振とう速度に絞られる。容器の変更・スケールアップの観点からみて三角フラスコ/培養バッグ兼用培養装置は有用である。

※BD Select CHOは界面活性剤・L-グルタミン不含であり、0.1% Pluronic F-68や4 mM L-グルタミンの添加が必要である。本実験はL-グルタミン不添加で培養を行った。最適条件である4 mM L-グルタミンの添加時にはより好成績が期待できる。

2010-11-25 10:37:35

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