熱応答性磁性ナノ粒子 Therma-Max® LPA/UPA
■編集:NPO法人サイエンス・コミュニケーション
■実験協力:お茶の水女子大学サイエンス&エデュケーションセンター
■実験協力:お茶の水女子大学サイエンス&エデュケーションセンター
はじめに
抗体はバイオサイエンス分野において必須の研究ツールであり、目的とする抗体の種類と純度によって様々な精製方法が開発されている。IgGの場合にはprotein AやGを利用したアフィニティー精製が、簡便かつワンステップで高い純度を得られる方法として最もよく利用されている。従来用いられてきた非磁性の樹脂によるアフィニティー精製では、抗体と樹脂とを結合させた後にチューブ中のビーズの遠心を繰り返したり、樹脂充填カラムに長時間バッファーを流して洗浄する必要があった。対して近年広まりつつある磁気ビーズを用いた物質の分離精製は、手軽かつ数秒から数分で迅速に行えることが大きな利点となっている。Therma-max®は温度によって可逆的に凝集と分散を繰り返すことができる、熱応答性磁性ナノビースである。従来のミクロンサイズの磁気ビーズに比べてTherma-max®は粒子径が100nmと非常に小さいため、相互作用に利用できる表面積が大きく、分子認識能が極めて優れている。また、ナノサイズの粒子では通常磁気分離が極めて困難だが、Therma-max®はわずかな温度変化で凝集し、容易に磁気分離することができる。今回はこの熱応答性磁性ナノ粒子Therma-max®にプロテインAを結合したTherma-max® protein Aを用い、ハイブリドーマの培養上清から実際にIgGの精製を行った事例を紹介する。
材料と方法
抗体モデル試料
- 無血清ハイブリドーマ培養上清(ラット由来IgG2)
- 血清入りハイブリドーマ培養上清(マウス由来IgG2)
今回実験に用いた培養上清は、無血清のものを(株)MBLから、血清入りのものを東京都臨床医学総合研究所の久保英夫先生に提供していただいた。
試薬及びツール
- 熱応答性磁性ナノ粒子
加温磁気分離タイプ 30℃以上で凝集、20℃以下で分散:Therma-Max® LPA Protain A(30)
冷却磁気分離タイプ 2℃以下で凝集、10℃以上で分散:Therma-Max® UPA Protain A - Therma-Max®分離用器具(Magna-Stand 6)
- TBS-T(20mM Tris-HCl,150mM NaCl,0.05% Tween20,pH7.5)
- 100mMグリシン塩酸バッファー(pH3)
- 精製水
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| Therma-Max® UPA Protain A | Therma-Max® LPA Protain A(30) |
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| Magna-Stand 6 |
機器
実験プロセス1 無血清ハイブリドーマ培養上清からのIgG精製
-
1-1 加温磁気分離タイプ:Therma-Max® LPA Protain A(30)
- 無血清ハイブリドーマ培養上清を用意。
- 恒温槽を2℃と30℃にセット。再分散用のTBS-T、100mMグリシン塩酸バッファーは氷冷しておく。
IgGの吸着操作
- 原液100μLを1.5mLマイクロチューブに分注。
- サンプルを10μL加え、冷槽(2℃)で15分間インキュベート。
インキュベート中は1〜2分に一度、泡立たぬ程度に軽くタッピングして溶液を混合する。 - 温槽(30℃)中の磁気分離装置にセットし1分間加温。軽くタッピングして凝集を促した後、再び磁気分離装置にセットし1分間静置し、凝集塊を形成させる。 装置に装着したまま凝集塊を吸い込まないよう上清をピペットで除去。(→#3 上清)
- TBS-T 200μLを加え、再分散。
- 3〜4の操作を行い、吸着ビーズをwash。3回実行。
(→1回目:#5-1 wash1、2回目:#5-2 wash2、3回目:#5-3 wash3)


軽くタッピング 

磁気分離装置にセットしたところ 磁性ビーズが凝集し、吸着されている様子
IgGの溶出操作
- 凝集塊に100mMグリシン塩酸バッファー(pH3)を45μL加え、よくピペッティングして分散させる。
- 2℃で5分間インキュベートし、ビーズに吸着したIgGを溶出させる。
インキュベート中は1〜2分に一度、泡立たぬ程度に軽くタッピングして溶液を混合する。 - 3〜4の操作を実行。この時の上清に1M NaOHを加え中和(4μL)
(→#8 IgG溶出分離1回目) - 再度、6〜8の処理を実行。(→#9 IgG溶出分離2回目)
- 最後に残ったペレットにTBS-T 100μL加え、残留物を検証。(→#11 ペレット)


磁性ビーズが凝集し、吸着されている様子
SDS-PAGE
-
回収された各サンプルと分離抽出前の精製前を用いて、目的タンパク質質であるIgGの検出比較を行った。比較用の精製前としては5倍希釈した培養上清を用意した。
各サンプル21μLに4xサンプルバッファーを7μL加え、95℃で5分加熱処理を行った。各サンプルはゲルに15μLずつアプライした。
-
1-2 冷却磁気分離タイプ:Therma-Max® UPA
- 無血清ハイブリドーマ培養上清(ラット由来IgG2)を用意。
- 恒温槽を2℃と37℃にセット。PBS-T、100mMグリシン塩酸バッファーは使用前に室温(25度前後)に戻しておく。
IgGの吸着操作
- 温槽(37℃)で5分間加熱分散させた原液を25μLと、175μLの精製水を1.5mLマイクロチューブに分注・添加し混合。
- 2分間冷槽(2℃)で冷却、凝集促進のためタッピング。
- 冷槽中でチューブを磁気分離装置に装着し、1分間静置して磁気分離。
- 装置に装着したまま、凝集塊を吸い込まないよう上清をピペットで除去。
- TBS-T 100μLを加え再分散。
- サンプルを10μL加え、よくピペッティングした後、室温(26℃)で15分間インキュベート。インキュベート中は1〜2分に一度、泡立たぬ程度に軽くタッピングして溶液を混合する。
- 2〜4の操作を実行。 (このとき、冷槽中の磁気分離装置にチューブを装着して2分静置、一度外して軽くタッピングして凝集を促進、再度磁気分離装置にチューブを装着して1分静置、 のようにするとあまり壁面に散らずに凝集塊が形成された)。抗体を吸着したTherma-Max® UPAの凝集塊とそれ以外の上清に分離される。(→#7上清)。
- TBS-T 200μLを加え、再分散。
- 7〜8の操作を行い、吸着ビーズをwash。3回実行。(→1回目:#9-1 wash1、2回目:#9-2 wash2、3回目:#9-3 wash3)。

磁性ビーズが凝集し、吸着されている様子
IgGの溶出操作
- 凝集塊に100mMグリシン塩酸バッファー(pH3)を45μL加え、よくピペッティングして分散させる。
- 室温(26℃)で5分間インキュベートし、ビーズに吸着したIgGを溶出させる。インキュベート中は1〜2分に一度、泡立たぬ程度に軽くタッピングして溶液を混ぜる。
- 2〜4の操作を実行。この時の上清に1M NaOHを4μL加え中和。(→#12 IgG溶出分離1回目)
- 再度、11〜13の処理を実行。(→#13 IgG溶出分離2回目)
- 最後に残ったペレットにTBS-T 100μL加え、残留物を検証。(→#14 ペレット)
SDS-PAGE
-
回収された各サンプルと分離抽出前の精製前を用いて、目的タンパク質質であるIgGの検出比較を行った。比較用の精製前としては5倍希釈した培養上清を用意した。
各サンプル21μLに4xサンプルバッファーを7μL加え、95℃で5分加熱処理を行った。 各サンプルはゲルに15μLずつアプライした。
実験プロセス2 無血清ハイブリドーマ培養上清からのIgG精製
-
- 血清入りハイブリドーマ培養上清(マウス由来IgG2)を用意。
IgGの吸着、溶出操作、SDS-PAGE
- 冷却磁気分離タイプ:Therma-Max® UPA、加温磁気分離タイプ:Therma-Max® LPA Protain A(30)を用い、 上記実験プロセス1と同様にしてIgGの精製を行った後、SDS-PAGEにて比較を行った。各サンプルはゲルに3μLずつアプライした。
結果1:SDS-PAGE 上清比較…無血清ハイブリドーマ培養上清からのIgG精製
抗体タンパク質質が見られたレーンは、
5:IgG溶出分離1回目、8:精製前(ロード10μL)
加熱凝集磁気ビーズ:Therma-Max® LPA及び冷却凝集性磁気ビーズ:Therma-Max® UPAによって、サンプルからIgGが回収された。 溶出画分にはIgG以外のタンパク質は見られなかった。 途中のプロセスやペレットには殆ど残留が見られなかった(Therma-Max® LPA Protain A(30)の上清のみ、ごく薄くIgGのバンドがみられた)。
5:IgG溶出分離1回目、8:精製前(ロード10μL)
加熱凝集磁気ビーズ:Therma-Max® LPA及び冷却凝集性磁気ビーズ:Therma-Max® UPAによって、サンプルからIgGが回収された。 溶出画分にはIgG以外のタンパク質は見られなかった。 途中のプロセスやペレットには殆ど残留が見られなかった(Therma-Max® LPA Protain A(30)の上清のみ、ごく薄くIgGのバンドがみられた)。
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| *矢尻は上からIgG重鎖と軽鎖 | |
| Therma-Max® UPA | Therma-Max® LPA |
| 1:#7 上清 | 1:#7 上清 |
| 2:#9-1 wash1 | 2:#9-1 wash1 |
| 3:#9-2 wash2 | 3:#9-2 wash2 |
| 4:#9-3 wash3 | 4:#9-3 wash3 |
| 5:#12 IgG溶出分離1回目 | 5:#12 IgG溶出分離1回目 |
| 6:#13 IgG溶出分離2回目 | 6:#13 IgG溶出分離2回目 |
| 7:#14 ペレット | 7:#14 ペレット |
| 8:精製前 | 8:精製前 |
結果2:SDS-PAGE 上清比較…血清入りハイブリドーマ培養上清からのIgG精製
抗体タンパク質質が見られたレーンは、
Therma-Max® LPAの1:上清
Therma-max UPA及びLPAの5:IgG溶出分離1回目、
8:精製前(重鎖はBSAに隠れて見えない)。
加熱凝集磁気ビーズ:Therma-Max® LPA及び冷却凝集性磁気ビーズ:Therma-Max® UPAによって、サンプルからIgGが回収された。 溶出画分にはIgG以外のタンパク質は見られなかった。 途中のプロセスやペレットには殆ど残留が見られなかった(Therma-Max® LPA Protain A(30)の上清のみ、やや薄くIgGの軽鎖と思わしきバンドがみられた)。
Therma-Max® LPAの1:上清
Therma-max UPA及びLPAの5:IgG溶出分離1回目、
8:精製前(重鎖はBSAに隠れて見えない)。
加熱凝集磁気ビーズ:Therma-Max® LPA及び冷却凝集性磁気ビーズ:Therma-Max® UPAによって、サンプルからIgGが回収された。 溶出画分にはIgG以外のタンパク質は見られなかった。 途中のプロセスやペレットには殆ど残留が見られなかった(Therma-Max® LPA Protain A(30)の上清のみ、やや薄くIgGの軽鎖と思わしきバンドがみられた)。
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| *矢尻は上からIgG重鎖と軽鎖 |
結果まとめ
加温磁気分離タイプ:Therma-Max® LPA(30)及び冷却磁気分離タイプTherma-Max® UPAによって、無血清ハイブリドーマ培養上清と血清入りハイブリドーマ培養上清からそれぞれIgGを極めて純度よく分離回収できるという結果が得られた。溶出画分にはIgG以外のタンパク質のバンドは見られず、無血清の培養上清のみならず、血清入り培養上清という多量の夾雑タンパク質が混ざるサンプルからもIgGのみを特異的に回収することが可能であった。溶出時の効率を見ると、1回目の分離回収サンプルにのみIgGのバンドが検出され、2回目の分離回収サンプルからは検出されておらず、ほぼ一度の溶出で分離回収ができることが示されている。また血清入り培養上製のサンプルで特に明らかであるが、2回目のwashまでで上清に含まれる夾雑タンパク質が全て洗い除かれており、ごく少ないwashの回数でIgGを精製することが可能であることが確認された。
考察
本実験では、卓上で迅速かつ簡便にIgGの精製を行えるツールとして、熱応答性磁気ナノビーズTherma-Max® LPA Protain A(30) とTherma-Max® UPA Protain Aを検討した。ナノビーズと培養上清をチューブ内に分注し、卓上恒温槽にセット、適宜バッファーをピペットで換えるだけという非常に簡単な手順であったが、無血清・血清含む培養上清からそれぞれ非常に純度良く抗体を精製することができた。
樹脂ビーズによる抗体精製では、通常、抗体を結合させた後に10〜30回程度バッファーでwashする必要があるが、Therma-Max®では2回のwashまでで夾雑タンパク質が全て洗い除かれており、ごく少ないwashの回数でIgGを精製することが可能であった。ナノサイズのビーズという広い反応表面積と高い分子認識能の現れであると言える。
磁気分離の手軽さとwash回数の少なさで、全てのステップは一時間以内で終了した。磁性スタンドは6〜10本のチューブを扱うことが可能であり、複数のサンプルを急ぎ精製し比較検討したい際に特に有用であろう。
今回は培養上清を特に濃縮せず実験を行った。human IgGの場合、Therma-Max®シリーズの結合量は冷却磁気分離タイプTherma-Max® UPA Protein Aで110μg/mg 、過熱凝集タイプTherma-Max® LPA Protein A (30)で160μg/mgまである。今回の実験では未検証であるが、培養上清のコンディションによって適宜上清を濃縮し、またTherma-Max®の使用量を増やすことでより大量の抗体を精製することが可能ではないかと考えられる。
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