酵母・植物体からのRNA抽出の方法の開発
■編集:NPO法人サイエンス・コミュニケーション
■実験協力:お茶の水女子大学サイエンス&エデュケーションセンター
■実験協力:お茶の水女子大学サイエンス&エデュケーションセンター
実験趣旨
植物細胞やグラム陽性菌は厚い細胞壁をもっており、RNAを抽出する際には細胞壁の酵素処理や物理的破砕のステップを加える必要があります。細胞壁の処理にはサンプルの処理量、収量、目的とするRNA純度などにより様々な手法があるが、少量のサンプルを簡便に処理する手法としては、ビーズと専用の破砕装置を用いた物理的破砕法が一般的に知られています。しかし固い細胞骨格を持っているグラム陽性菌やカビ、更にそれに組織構造を併せ持ち、かつ液胞に様々なRNA分解酵素を持つ植物体では、破砕が十分ではなくRNA収量が低い、激しく壊すことによる細胞壁や葉脈などのごみによるRNA純度の低下、の諸問題が存在します。
さらに破砕できる装置が非常に高額であり、コストパフォーマンスの問題も存在します。今回私たちNPO法人サイエンス・コミュニケーションでは、タイテック社が開発したGM-01に着目し、本装置を活用したRNA抽出方法の開発に取り組みました。
材料と方法
細胞
- 分裂酵母 S.pombe
- シロイヌナズナ植物体 A.thaliana
試薬
- DEPC水
- RNA抽出用フェノール試薬(TRIzol、インビトロジェン株式会社)
- クロロホルム:イソアミルアルコール混液(CI溶液 24:1)
- 70%エタノール
機器
容器・機材
- 2.0mlマイクロチューブ(ワトソン、ネジ口、自立タイプ)
※クラッシャーとチューブの組合わせは破砕効率にとって重要なファクターです。 - ガラスビーズ フジストンNo.06(直径0.35〜0.85mm、富士理化工業)
- ジルコニアビーズ(コスモバイオ株式会社)
- 金属クラッシャー(タイテック株式会社)
注意点
ガラスビーズ、金属クラッシャーは使用直前まで-20℃冷凍庫に置き冷却。
バグクラッシャーGM-01は冷蔵庫内に設置し、破砕、遠心は4℃で行った。
サンプルの移し替え等は室温で行った後、次に遠心するまで氷上に置いた。
方法
-
酵母からの抽出
- 分裂酵母 (YPD培地で培養 1ml) スクリューキャップつきチューブに分注 ↓
- 遠心分離 GM-01のスピンダウンモード(最高回転数)で5分間遠心、上清を捨てた ↓ ↓
- TRIzol 500µl を注ぎ、ピペッティングで軽く懸濁 ↓
- ガラスビーズを適量(図2)入れたチューブ、ジルコニアビーズ入りチューブ、金属クラッシャー入りチューブに懸濁液を移した ↓
- Mixing GM-01のミキシングモード(最高回転数)で10分間撹拌 ↓
- Spin down GM-01のスピンダウンモード(最高回転数)で10分間 ↓
- 上清を新しい1.5mlチューブに移す(図3)…→ここで沈殿を検鏡し細胞の破砕具合を確認 ↓←CI溶液 等ボリューム **
- Mixing GM-01ミキシングモードのフラッシュボタンを用いて数秒間 ↓
- Spin down GM-01のスピンダウンモード(最高回転数)で15分間 ↓
- 上清を新しい1.5mlチューブに移す ↓←CI溶液 等ボリューム
- Mixing GM-01ミキシングモードのフラッシュボタンを用いて数秒間 ↓
- Spin down GM-01のスピンダウンモード(最高回転数)で15分間 ↓
- 水相を新しいマイクロチューブに移す ↓
- イソプロパノール沈殿 ×0.6〜1容積のイソプロパノールを注ぐ(目分量でよい) ↓
- 静置(室温、15分) ↓
- Spin down GM-01のスピンダウンモード(最高回転数)で20分間 ↓
- 沈殿 ↓←wash with 70% EtOH 1ml
- Spin down GM-01のスピンダウンモード(最高回転数)で5分間 ↓
- 沈殿 ↓←乾燥後20µlのDEPC水に溶解、Total RNA溶液とする
↓
↓
↓
↓
↓
液体窒素で凍結↓ ↓
スクリューキャップをよく閉め、チューブを液体窒素中に入れる。液体窒素の蒸発が収まり、シューという音がしなくなったらチューブを取り出して氷上に置く。(図1)
↓- 5μLを取り、DEPC水95μLで希釈後、分光光度計で濃度測定
- 10μLを1%TAEアガロースゲルにて泳動、純度を確認


図1 液体窒素でサンプルを凍結
スクリューキャップをよく閉め、チューブを液体窒素中に入れる。
液体窒素の蒸発が収まりシューという音がしなくなったらチューブを取り出して氷上に置く。



図2 ガラスビーズをチューブに注ぐ。分量は正確でなくても構わない。
- 植物体からの抽出
- シロイヌナズナ植物体を水洗いして土を除き、紙タオルで軽く拭く ↓ ↓
- 植物体を剃刀で5mm幅程度に刻む(図3) ↓
- ピンセットでスクリューキャップつきチューブ、またはジルコニアビーズ入りマイクロチューブに移す。各75mg ↓←液体窒素凍結
- ※スクリューキャップつきチューブのサンプルにも、金属クラッシャーをセットする(図4) ↓←TRIzol 500µL
- 植物体150mg ↓←液体窒素凍結
- TRIzol が溶けたら500μLを取りマイクロチューブに移す
↓←TRIzol 1000µL
↓←乳鉢で磨り潰す
-
↓ ↓ ↓
- Mixing GM-01のミキシングモード(最高回転数) ↓
で15分間撹拌† ↓
↓ ↓
- Spin down GM-01のスピンダウンモード(最高回転数)で10分間 ↓
- 上清を新しい1.5mlチューブに移す ↓
- 以下、a)の**以下と同様の手順にてTotal RNAを抽出、泳動(泳動は、20μLのDEPC水に溶かしたサンプルを各2μLアプライした)
†15分攪拌後、ジルコニアビーズのチューブに入れた葉は全て透明になった。この段階で、小型棒温度計で各チューブ内の温度を測ったところ約15℃であった。



図3 剃刀で5mm幅程度に刻み、チューブに移したところ

図4 凍結した植物サンプルにTRIzol 500µlを加えた後に、金属クラッシャーをチューブにセットした。
金属クラッシャーは-20℃で使用直前まで冷やしておき、チューブへのセットは手早く行うと良好な結果が得られる。
結果
a.破砕前後の酵母、植物体の細胞の状態の観察
ガラスビーズ、ジルコニアビーズ、金属クラッシャーで破砕した各サンプルで酵母の細胞は粉々には砕かれていない。 サンプルの泳動結果からRNAは抽出されているので、細胞は破砕されているが細胞壁のゴーストが残っていると考えられる。
乳鉢ですりつぶした場合、固い葉の組織なども完全に粉砕されている。完全に破砕すると間違いなくRNAが取れるという安心感が得られる一方で、 葉脈などはデブリの原因になるがこれまでは代替手段がなかった。
b. 各サンプルから抽出されたRNAの電気泳動
抽出したRNAの電気泳動写真は下記の通り。
*結果・考察
ガラスビーズ、ジルコニアビーズ、金属クラッシャーの各破砕ツールでRNAが確認された。RNAは28S、18Sのバンドが鮮明に見えており精度よく回収されており酵素による分解も確認されなかった。 金属クラッシャーにおいては、液体窒素で凍結しないサンプルからもRNAが確認された。この結果は、金属クラッシャーの破砕様式がビーズによるものと異なることを示唆している。ビーズ破砕の場合、撹拌に伴うビーズと細胞のランダムな衝突によって細胞が破砕されるのに対し、金属クラッシャーでの破砕の場合、金属クラッシャーがチューブの中で上下に動く運動と、チューブの中で石臼のように回転する運動が確認された。こうした金属クラッシャーのチューブ内での運動が細胞を破砕する上で効果的であると考えられる。
*考察
・28S、18Sのバンドが鮮明に見えておりアラビ植物体からよくRNAが抽出できている。 各レーンは20μLのDEPC水に溶かしたサンプルを2μLづつアプライしたもの。 RNA収量も高く、ジルコニアビーズは乳鉢とほぼ同等、金属製ブレッドでは更に効率よく回収できている。
| 破砕前の分裂酵母 |
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破砕後の分裂酵母 ガラスビーズ使用 +液体窒素凍結 |
ガラスビーズ使用 −液体窒素凍結 |
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ジルコニアビーズ使用 +液体窒素凍結 |
ジルコニアビーズ使用 −液体窒素凍結 |
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金属クラッシャー使用 +液体窒素凍結 |
金属クラッシャー使用 −液体窒素凍結 |
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ガラスビーズ、ジルコニアビーズ、金属クラッシャーで破砕した各サンプルで酵母の細胞は粉々には砕かれていない。 サンプルの泳動結果からRNAは抽出されているので、細胞は破砕されているが細胞壁のゴーストが残っていると考えられる。
| 破砕前の植物体 | |
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植物体の場合、液体窒素による凍結を破砕の前提条件として行った。 その理由として細胞内の液胞にあるRNA分解酵素によるRNAの分解を極力避けることが挙げられる。 |
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破砕後の植物体 ジルコニアビーズ使用 +液体窒素凍結 |
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ジルコニアビーズでは細胞の破砕が確認された。しかし葉脈の周辺に細胞の破片が多く残っていることから組織から細胞を押し出しきれていない印象。 |
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破砕後の植物体 金属クラッシャー使用 +液体窒素凍結 |
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金属クラッシャーも細胞の破砕が見られる。金属クラッシャーの方がより組織から細胞が押し出されている印象。両者共に葉脈など葉の固い構造は残っている。液体窒素で凍結+乳鉢で磨り潰したものと比べると破砕は穏やかであり、破砕時に発生するデブリ(破砕のごみ)の減少が期待される。 |
| 液体窒素で急速凍結し、乳鉢にてすり潰したもの |
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乳鉢ですりつぶした場合、固い葉の組織なども完全に粉砕されている。完全に破砕すると間違いなくRNAが取れるという安心感が得られる一方で、 葉脈などはデブリの原因になるがこれまでは代替手段がなかった。
b. 各サンプルから抽出されたRNAの電気泳動
抽出したRNAの電気泳動写真は下記の通り。
| <分裂酵母RNAの泳動結果> | |
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レーン1:100bpマーカー レーン2:ガラスビーズ破砕、+液体窒素凍結 レーン3:ガラスビーズ破砕、−液体窒素凍結 レーン4:ジルコニアビーズ破砕、+液体窒素凍結 レーン5:ジルコニアビーズ破砕、−液体窒素凍結 レーン6:金属製クラッシャー破砕、+液体窒素凍結 レーン7:金属製クラッシャー破砕、−液体窒素凍結 |
ガラスビーズ、ジルコニアビーズ、金属クラッシャーの各破砕ツールでRNAが確認された。RNAは28S、18Sのバンドが鮮明に見えており精度よく回収されており酵素による分解も確認されなかった。 金属クラッシャーにおいては、液体窒素で凍結しないサンプルからもRNAが確認された。この結果は、金属クラッシャーの破砕様式がビーズによるものと異なることを示唆している。ビーズ破砕の場合、撹拌に伴うビーズと細胞のランダムな衝突によって細胞が破砕されるのに対し、金属クラッシャーでの破砕の場合、金属クラッシャーがチューブの中で上下に動く運動と、チューブの中で石臼のように回転する運動が確認された。こうした金属クラッシャーのチューブ内での運動が細胞を破砕する上で効果的であると考えられる。
| <植物体(アラビドプシス)から抽出したRNAの泳動結果> | |
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レーン1:ジルコニアビーズ破砕 レーン2:金属クラッシャー破砕 レーン3:乳鉢で破砕 レーン4:1kbpマーカー |
・28S、18Sのバンドが鮮明に見えておりアラビ植物体からよくRNAが抽出できている。 各レーンは20μLのDEPC水に溶かしたサンプルを2μLづつアプライしたもの。 RNA収量も高く、ジルコニアビーズは乳鉢とほぼ同等、金属製ブレッドでは更に効率よく回収できている。
まとめ
バグクラッシャーGM-01を用いて分裂酵母、アラビ植物体から効率よくRNAを抽出することが確認できました。特に金属クラッシャーとの組合せでは、酵母および植物体からのRNA抽出で非常に良い結果が得られました。
破砕後の細胞を検鏡すると、酵母では細胞壁の形が残っていました。また、シロイヌナズナでは葉脈等の堅い構造が一部残っており、乳鉢を用いた場合と比べてよりマイルドな破砕であることが明らかになりました。細胞壁や組織由来のデブリが多くサンプルに混入するとRNAの電気泳動時にバンドを乱す元やRNAの純度に影響を与え、その後の実験に影響を与えることあります。細胞壁の形が残る程度の穏やかなクラッシュの方が細胞からのRNA調整には有利です。クラッシュ時間と激しさ(レベル)は変更可能であり、実際に使用する細胞種により微調整することも可能です。
GM-01には冷却機能がないため、細胞の破砕は4℃環境が維持できる冷蔵庫の中で実施した細胞の破砕が長時間(10〜15分)に及ぶことからRNAの分解が懸念されましたが、得られたRNAの電気泳動の結果、長時間の破砕にもかかわらずRNAの分解は確認されませんでした。破砕後のサンプル温度は酵母で9℃、植物で15℃と低く、かつTRIzolをあらかじめ加えておくことが本手法でのRNA抽出のポイントであると考えられます。
GM-01を用いたRNAの抽出方法は、乳鉢と比べ複数のサンプルを同時に処理できるので、多数のサンプルから少量ずつRNAを抽出したい際などに有用です。また破砕後・Mixing後に直接遠心過程に移ることができるため便利です。本装置と手法が多くの研究者のご参考になれば幸いです。
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